京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

生物調節化学研究室

昆虫に対する生理活性物質の化学

1. サソリやクモの毒液

サソリやクモは、捕食者である哺乳動物から身を守るため、あるいは餌となる昆虫を捕獲するために「毒」という洗練された「武器」を使います。これらの毒液は生理活性ペプチドの宝庫であり、その中には神経に作用するペプチド毒素が多く含まれています。
 神経毒素は相手の動きを素早く止めるという点で最も優れており、このような毒素を持つようになったと考えられます。サソリやクモの毒素は、哺乳動物に対する毒性のイメージが強いようですが、昆虫に対してのみ選択的に低濃度で作用する毒素が多く存在するのも大きな特徴です。このような毒素は、それ自身、あるいはそれをもとにした安全な殺虫剤の開発に有用な情報をもたらします。

2. 日本に生息するサソリの毒液に含まれる殺虫性ペプチド毒の探索

 日本には先島諸島などにヤエヤマサソリ(Liocheles australasiae)とマダラサソリ(Isometrus maculatus)が生息しています。ヤエヤマサソリは体長3cm前後のサソリで、乾燥しているところよりも朽木などの湿った場所を好み、昆虫を主なエサとしています。
 ヤエヤマサソリの毒液は、人間に対する毒性は低いとされていますが、昆虫をエサとしていることから(動画参照)、昆虫に対して作用するペプチド毒素が含まれていると考えられています。
 マダラサソリは雌雄で体長が異なり、メスよりもオスのほうが大きなサソリです。ヤエヤマサソリとは異なり、このサソリは風通しの良い乾燥した場所を好みます。このサソリもヤエヤマサソリと同様に昆虫をエサとしていることから、昆虫に対して作用するペプチド毒素を含んでいると考えられます。
 私たちは、これらのサソリを生物材料として、その毒液中に含まれていると考えられる殺虫性ペプチドを見出すことを目的として、ペプチド毒素の単離・精製を行っています。サソリの毒液からのペプチド成分の精製は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を駆使して行い、エドマンシークエンサーや質量分析装置(MS)を用いて配列の解析や分子量の同定を行っています。さらに、同定した毒素を合成し、その構造と活性の関係も明らかにしようと試みています。

植物に対する生理活性物質の化学

1. 植物の免疫

 植物は、病原体から身を守るため、巧妙な防御システムを有しています。これは、哺乳動物などの持つ自然免疫システムと非常に似通ったものであることが最近分かってきました。
植物は、病原体由来の物質を感知することで病原体の侵入をいち早く察知し、防御のための行動を起こします。この防御の仕組みを人為的に活性化することで、植物が病気にかかるのを防ぐことができると考えられています。

2. 植物の免疫を活性化するペプチド

 植物のもつ防御反応は、病原体が植物に侵入するときに出す病原体由来の物質(エリシター)によって引き起こされます。これまでにいろいろな病原体からエリシターが発見されていますが、さらに多くの未知のエリシター、およびその認識システムの存在が予想されています。
私たちは、このような植物の持つ防御システムを活性化することのできるペプチドの探索とその作用機構についての研究を進めています。

微生物に対する生理活性物質の化学

1. 神経毒以外のサソリ毒液成分

 サソリの毒液には、神経に作用するペプチド以外に抗菌性を示すペプチドが含まれています。
これらのペプチドは、α-ヘリックス構造をもち、生体膜に孔を開けることで抗菌活性を示します。しかしながら、これらのペプチドの毒液中での役割についてはまだ完全には分かっていません。

2. サソリ毒液中の抗菌性ペプチドの役割

 サソリ毒液由来の抗菌性ペプチドには様々な大きさや配列のものが存在しますが、それぞれ異なる活性を示します。私たちは、その構造と作用選択性の違いについて研究しています。また、サソリ毒液由来の抗菌性ペプチドは抗菌活性だけでなく殺虫活性も示し、神経毒ペプチドと共存させると、その活性を向上させる効果を示すことが分かっています。私たちは、この作用メカニズムについても研究を進めています。